星までの距離を測る(4) 主系列星とHR図

年周視差を用いることによって、狭い範囲(銀河系の大きさから比較すれば)とはいえ、多くの星までの距離を測ることができます。
では、年周視差が測定できるほど近くにはない恒星について、その距離をどうやって測るのか、というのが今回のテーマです。

恒星進化論と主系列星

恒星の一生を扱う理論を「恒星進化論」と呼びます*1。恒星進化論によると、恒星は個性に乏しく、パラメータとなるのはほとんど質量だけです。質量が似通っている恒星はほとんど同じ長さの寿命を持ち、誕生から死にいたるまでほぼ同じプロセスを歩むと考えられています。
恒星進化論では、星の一生を「幼年期」「壮年期」「老年期」で表します。恒星は、誕生まもなくは「原始星」と呼ばれる幼年期を過ごし、安定した水素核融合の続く「主系列星」の壮年期を迎えます。老年期の星の姿は質量によってさまざまに変化し、死の迎え方までも質量によって運命付けられています。
今回の距離測定方法は、このうちの「主系列星」を用います。
主系列星には、非常に重要な性質があります。それは、主系列星の色は表面の温度で決まり、表面の温度はその星の明るさ*2で決まるということです。
すなわち、主系列星の色を観測すれば、その星が本来どのくらいの明るさかが分かります。そして、その本来の明るさと地球から見た明るさとの比較で、地球からの距離が分かるというわけです。このような距離の推定方法を、「分光視差法」と呼びます。
もちろん、「その星が本来どのくらい明るいか」が分かっていないとこの方法は使えません。しかし、年周視差の観測により、すでに近隣の多数の主系列星までの距離が分かっていて、それらの星の本来の明るさが分かっているわけです。これで宇宙の距離梯子を一段登ることができました。
遠距離の星は、色の観測は可能ですが、それが実際に主系列星に属しているか、あるいは他の巨星などであるかの判別は難しくなります。そのような場合、星団単位での距離推定を行います。
銀河系内の星の集合を星団といいます。同一の星団に属する(と思われる)複数の星に対し、縦軸に見かけの明るさを、横軸にスペクトル(要するに恒星の色)を取ったグラフを書きます。これをHR図と呼びます。HR図では、主系列星は中央を斜めに横切る線上に乗ります。
星団ごとのHR図は、どれも似通った形状になります。どの星団も、多くの主系列星と、少数のそれ以外の星を含んでいるためです。
あとは、この星団のHR図と、距離が推定できている星団、例えば地球最近傍の星団であるヒヤデス星団などのHR図と比較し、どれくらい暗くなっているかでその星団までの距離を求めることができます。
主系列星を使った距離推定は、当然ながら主系列星以外には適用できません。ですが、ターゲットの星が星団に所属している場合、その星団までの距離が分かれば、その星までの距離も大まかにわかります。
同様に、ターゲットの星が主系列星と連星を構成している場合も、同様に距離の推定が可能になります。
分光視差法を用いることによって、数万光年先の星までの距離が分かるようになり、銀河系のおおまかなサイズが推定できるようになりました。もっとも、特に遠距離ではこの方法は精度が出ないため、銀河系がどのような形状をしているかについてはいまだ論争がありますし、その半径の推定値も8〜10万光年とおおまかにしか推定できていません。前回紹介したJASMINE計画が成功すれば、より正確な銀河系の形が明らかになるでしょう。

次回は、「セファイド変光星」という特殊な星を用い、別の銀河までの距離を計測する方法についてです。

*1:現在この呼び方が正式な学術用語となっていますが、個人的にはなぜこれが「進化論」なのか不思議です。進化ではなく成長だと思うのですが…

*2:この場合の明るさは、地球から見たときの明るさではなく、その星本来の明るさを意味します