星までの距離を測る(2) 年周視差

今日の日記は、「宇宙の距離梯子」の最下段となる、年周視差についてです。

年周視差とは、地球の公転のために生じる星の位置のずれのことを表します。年周視差を検出することにより、その星までの距離を計測することができます。年周視差による計測は、地上の光学望遠鏡を用いた場合では約300光年、1989年に打ち上げられたヒッパルコス衛星では約3000光年以内の星までの距離を求めることができます。

年周視差による計測の原理

遠くの地点までの距離を測るためには、「三角測量」という方法が古来から用いられています。これは、位置の分かっている二点(A,B点)と、これから位置を求めたい点(C点)の三点で三角形を作り、三角関数を用いてC点を求めるというものです。
三角測量の参考リンク

この方法を応用することにより、太陽の近くにある恒星までの距離を求めることができます。
現在の地球の位置をA点とし、半年後の地球の位置をB点とします。地球は太陽の周りを公転しているため、A点とB点は太陽と地球との距離の二倍、すなわち約3億キロメートル*1離れていることになります。そして、A点とB点では、対象の星の位置がわずかにずれて計測されるはずです。このずれの大きさを角度で表したものを「年周視差」と呼びます。

これだけ聞くと簡単に星までの距離が求まりそうに感じますが、実際には年周視差を求めるのは非常に難しい作業です。
まず、年周視差そのものが非常に小さいという問題があります。角度の1度の60分の1を「1分」と呼び、その1分のさらに60分の1を「1秒」と呼びます*2。そして、年周視差が1秒より大きい恒星はありません。
すなわち、年周視差を正確に計測するためには、1度の3600分の1よりさらに細かい角度という、普通の人には考えられないほど小さな角度のずれを検出しなければいけません。
さらに問題をややこしくするものに、星の固有運動があります。恒星は銀河系の中で静止しているわけではなく、銀河系の中心の周りを回っています。たとえば太陽は、約2億2500万〜2億5000万年をかけて銀河系を一周すると推定されています。この恒星の動きのため、一年を通してみると星の位置は少しずつずれていきます。これを星の固有運動と呼びます。
よって、年周視差を求めるためには、星の動きを検出するだけではなく、その固有運動を分離する必要があります。

このように、年周視差の計測は非常に困難な作業です。初めて年周視差の計測に成功したのは1838年のことで、ドイツのベッセルによるものでした。ベッセルははくちょう座61番星を計測し、その年周視差を0.314秒と推定しました。これを距離に直すと、およそ11.2光年*3となります。
ちなみに、はくちょう座61番星の固有運動は非常に大きく、およそ5秒/年程度と、年周視差による運動をはるかに超えています。この大きな固有運動のなかに埋もれた年周視差を分離するためには、計測機器の進歩のみならず、データ分析のための数学の進歩が必要でした*4

長くなってきたので、続きは明日に回します。

参考リンク

http://www.richweb.f9.co.uk/astro/nearby_stars.htm#Cyg_61
はくちょう座61番星の固有運動、年周視差の動きのグラフがあります。

*1:本来は距離梯子は太陽の距離を求めるところから始まりますが、今回は割愛しました

*2:なお、年周視差が1秒となる星までの距離をパーセク(pc)と呼びます。天文学の世界では光年よりもパーセクの方が多用されるようです

*3:現代の推定値では、11.40光年とされています

*4:年周視差は楕円運動として現れ、固有運動は直線運動として現れます。そのため、二つが重なると電話の受話器のコードを伸ばしたときのような軌跡になります。そこに年周視差と固有運動のモデルを当てはめ、それぞれのパラメータを推定する必要があるというわけです