星までの距離を測る(3) ヒッパルコス衛星

もう少し年周視差について続けます。

年周視差が分かれば、その星までの距離を非常に正確に、かつ反論の余地なく推定することができます。しかし、地上からの光学望遠鏡の観測では、年周視差そのものが非常に小さい上、大気の影響があるため、最大でも0.01秒(距離にして300光年ほど)程度まで、それも大きな誤差を含んだ値でしか計測することができません。
今回は、さらに遠方の年周視差を計測するための衛星、ヒッパルコスについてです。

ヒッパルコス衛星

ヒッパルコス衛星は、1989年に欧州宇宙機構によって打ち上げられました。
同衛星は、2つの恒星の間の角度を、0.001秒単位(1度の3600分の1の1000分の1)で計測可能な性能を持ち、最終的に118,000個以上の恒星の視差を観測することに成功しました。その結果はヒッパルコス星表としてまとめられています。なお、同衛星は打ち上げから約4年で運用を終了しています。
ヒッパルコス衛星の功績により、年周視差によって計測可能な距離は約3000光年にまで広がりました。この中には、ヒヤデス星団、北極星など、宇宙の距離梯子をさらに伸ばしていくにあたり、非常に重要な天体が含まれています。このことは後述したいと思います。
なお、現在日本では、http://www.jasmine-galaxy.org/index-j.html:Title=JASMINEと名付けられた恒星位置計測衛星の計画が始まっています。JASMINEは、ヒッパルコスの100倍の精度を実現し、一挙に最大3万光年先の星々までの距離を計測しようとする計画です。

さて、最初に述べたとおり、銀河系の直径は8〜10万光年と推定されています。それに比べ、ヒッパルコス衛星を用いても、視差による計測距離は3000光年に過ぎません。こちらのページは前述のJASMINEの特徴を説明しているものですが、その一番上に銀河系とヒッパルコス、JASMINEそれぞれの計測範囲の図が出ています。ヒッパルコスはその図の一番小さな黄色い円であり*1、年周視差の有効範囲がいかに狭いかがよく分かります。
さらに遠方の恒星までの距離を測るためには、また別の方法が必要なわけです。

次回は、銀河系内の遠方の恒星までの距離を測定する方法について述べます。

*1:この距離は最大計測距離ではなく、誤差が10%程度になる領域を表しています