星までの距離を測る(6) 赤方偏移とハッブルの法則

ようやく宇宙の距離梯子の最終段階に到達しました。
これは、銀河の「色」を観測することにより、その距離を推定する方法です。この方法であれば、銀河内の星一つ一つを分離して観測する必要がないため、非常に遠方の銀河までの距離を観測することができます。数億光年離れた銀河の距離推定のほとんどは、この手法に基づいています。

遠ざかる銀河の速度と距離

ハッブルの法則」という法則があります。これは、他の銀河までの距離と、その銀河が遠ざかる速度が正比例するという法則です。これは、宇宙が膨張しているということを意味しており、ビッグバン宇宙論の根拠の一つとなっています。
一様に膨張する宇宙は、巨大なレーズンパンの焼ける様子に例えられます。銀河はパン生地の中に一様に分布するレーズンです。パンが焼けて膨らんでいくと、レーズンどうしの距離はだんだん離れていきます。あるレーズンから他のレーズンを見ると、そのレーズンの離れていく速度と、そのレーズンの速度が比例します。パンの大きさが1分で3倍に膨張すると仮定すれば、5cm先のレーズンは15cmまで離れ、10cm先のレーズンは30cmまで離れます。すなわち、前者は10cm/分、後者は20cm/分で遠ざかっているように見えるというわけです。
また、「赤方偏移」と「青方偏移」という現象があります。これは、光のドップラー効果とも呼べるもので、近づいてくる光は青みがかり、遠ざかる光は赤みがかる現象です。ちょうど、救急車のサイレンが近づいてくると高く聞こえ、遠ざかると低く聞こえるのと同じです。赤方偏移の度合いを調べることによって、その銀河の速度が分かるというわけです。
すなわち、赤方偏移を用いてターゲットの銀河の遠ざかる速度を求め、その速度にハッブルの法則を当てはめれば、その銀河までの距離を計測することが可能です。
さて、ここで必要になってくるのは速度と距離の比例定数です。先のレーズンパンの例えでは、その比例定数は0.5[分]です。速度が20cm/分なら、20*0.5=10cmがそのレーズンまでの距離になるわけです。
例によって、この比例定数の推定も、距離梯子の前の段を利用します。すなわち、セファイドを用いて距離を推定できる銀河の赤方偏移を観測することで、その比例定数を計算できるというわけです。この比例定数は「ハッブル定数」と呼ばれています。同じ人物の名を冠したハッブル宇宙望遠鏡は、このハッブル定数の測定を主要ミッションの一つとしていました。
もちろん、実際には宇宙は一様に膨張しているわけでもなく、全ての銀河が一様に遠ざかっているわけでもないので、この方法では精度に問題があります。しかし、最初に述べた銀河団、超銀河団といった宇宙の大規模構造の解明は、ほとんどこの手法によってなされています。宇宙の構造の解明には、このハッブルの法則が非常に重要な役割を果たしているわけです。