SSDについてのまとめ(2008年8月)
最近SSDが気になって仕方がないので、情報収集をしています。
備忘録を兼ねてSSDの現在の状況をまとめておこうと思います。
SSDについて
SSD(Solid State Disk)とはハードディスク(HDD)の後継と目されている記憶ドライブです。
SSDのHDDに対する利点と欠点は以下のようになります。
- 利点
- 欠点
- 容量が少ない
- 1GBあたりの単価が高い
- 長期間使用による故障のリスクが未知数
- 発展が著しいデバイスなので、現在の新製品でも1年後には確実に陳腐化し、残念な思いをすることになる
SSDのHDDに対する利点のうち、最も大きいのは1番目のアクセス速度が速いことです。HDDはプラッタと呼ばれる円盤上にデータが記録されており、磁気ヘッドがそのデータを読み書きします。このとき、ヘッダが目的のデータのある位置まで物理的に移動する必要があるため、どうしてもデータへのアクセス時間がかかってしまいます。
それに対し、SSDはフラッシュメモリを用いているため、データへのアクセス時間が非常に短いという特徴があります。特に後述するSLCタイプのものはランダムライト、ランダムリード性能の両方が優れています。安価なMLCタイプのものでも、ランダムリード性能はHDDを圧倒します。
ランダムリード性能が高いと、小さなファイルを大量に読み込むような処理を高速に行うことができます。最も違いが大きいのはPCの起動時で、HDDに比べると非常に短い時間で起動することができます。また、アプリケーションの起動速度が速くなるなど、PCの体感速度の向上に大きく寄与します。特に、ノートPC用の2.5インチのHDDはランダムリードが遅いため、SSDに換装すると劇的な効果が現れます。
SSDの性能を数値的に確認するには、CrystalDiskMarkを用いるのが最近の標準で、検索するといくつもの計測結果がヒットします。計測結果のうち、ランダムアクセス性能を表すのは"4KB Random Read", "4KB Random Write"の項目です。これらの項目は4KB(最小単位)のファイルの読み書きの速度を調べるもので、その結果はそれぞれランダムリード、ランダムライトの速さを表しています。実際、多くのSSDのCrystalDiskMarkのベンチマーク結果では、"4KB Random Read"の数値がHDDを圧倒しています。SLCタイプであれば"4KB Random Write"の項もHDDよりかなり高い結果が出ているはずです。
なお、メーカのカタログスペックに記載されている書き込み速度・読み込み速度は、大きなファイルを連続して書き込み・読み込みしたときの数値です。CrystalDiskMarkでは、"Sequential Write","Sequential Read"の値がそれを表しており、多くの場合メーカのカタログスペックとほぼ同等になっているはずです。最近のSSDの多くはシーケンシャルリードの性能も高く、高速な3.5インチHDDと同程度の性能を持っています。
ちなみに、SSDやSDカード、USBメモリなどに使用されているフラッシュメモリには、SLC(Single Level Cell)、MLC(Multi Level Cell)の2タイプがあります。前者は1セルに1bit、後者は2bitの情報を記録するという違いがあります。SLCはMLCよりも高価ですが、寿命が長いという特徴を持っています。性能面でも、シーケンシャルリード性能は双方ともあまり差はありませんが、ランダムリード、ランダムライト、シーケンシャルライト性能はSLCが優れています。SSDはUSBメモリなどと異なり、日常的にデータの読み書きを行うデバイスであるため、SLCとMLCの差は重要になります。
2008年8月における製品動向
現在、日本で比較的容易に手に入るSSDについての情報を下記に記します。内容はカタログスペックと大体の価格、あとは雑感です。
なお、以下の製品は全て2.5インチ、SATAのものです。需要の面ではこのタイプが一番大きいと思います。
お約束ですが、ご購入は自己責任でお願いします。また、記事内に間違いがある場合はご指摘をお願いします。
最安価格、販売店の検索は、ベストゲート、価格.com、coneco.netなどから行えます。今のところ、ベストゲートが商品・販売店共に最多で、使いやすく感じました。coneco.netにはSSDの項はありませんが、ノート用HDDの項で"SSD"で検索すれば一覧が出てきます。
SuperTalent
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
FTM15GK25H | 15GB | MLC | 120MB/s | 40MB/s(Rev.A),60-80MB/s(Rev.B) | ¥20,000 |
FTM30GK25H | 30GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥25,000 |
FTM60GK25H | 60GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥40,000 |
FTM20GK25H | 120GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥60,000 |
廉価なMLCタイプSSDシリーズ。書き込み速度は公称40MB/sと遅いものの、読み込みの速さと価格の安さで人気商品になりました。
SLCタイプの他の製品と比べると、最大読み込み速度は上回っていますが、ランダムリード性能では劣っています。もちろんランダムライト性能も下回っています。さらに、同一ディスク内でのファイルコピー速度が非常に遅いという欠点もあります。
参考:「ひとりごと」さんによるSuperTalent、MTRONのSSDベンチマーク, PC Perspectiveのファイルコピーテスト
なお、このシリーズは他と異なり容量の表記が15の倍数となっていますが、実際の容量は他と変わらないようです。この会社の方々は正直なんでしょうか。
最近、ハードウェアはそのままでファームウェアがアップデートされたRev.Bが発売されました。型番がそのままなので見分けは非常に面倒で、"Revision B"と書かれたシールが貼ってあるかどうかを見る必要があるようです。
参考:Akiba PC Hotlineの記事
さて、このRev.Bは書き込み速度が1.5倍〜2倍となっていて、普通ならこちらを購入した方がよいはずなのですが、現時点では不具合が報告されています。
症状は、このSSDにOSをインストールすると、数秒から1分ぐらいのフリーズが発生するというものです。この症状が起こっているという人と起こっていないという人がいるので、環境に依存しているようですが、詳細はまだ分かっていないようです。対策・発生状況に関しても、インストールしてから一週間ぐらいで症状が起こるようになった、デフラグしたらよくなった、風を当てて冷やしたらよくなったなど、ほとんど都市伝説状態です。
いずれにしても、このRev.Bはおすすめしにくい状況です。
OCZ
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
OCZSSD2-1C32G | 32GB | MLC | 120MB/s | 87MB/s | ¥27,000 |
OCZSSD2-1C64G | 64GB | MLC | 133MB/s | 90MB/s | ¥45,000 |
OCZSSD2-1C128G | 128GB | MLC | 145MB/s | 92MB/s | ¥80,000 |
非常に安価で高性能という触れ込みで期待されていたシリーズでしたが、残念ながらこちらもおすすめしにくい状態です。
この製品に使用されているフラッシュとコントローラは上記のSupertalentのものと同じです。そのため、上記のSuperTalent製品同様、ランダムアクセス速度とファイルのコピーはそれほど早くありません。そして、上記同様OSがフリーズする症状が発生しています。
参考:OCZのサポートフォーラムでのフリーズ問題に関するスレッド, Laptop Magazineでのベンチマーク
また、このシリーズは海外の売値に比べ、国内の販売額が高額ということでも悪評が立っています。例えば128GBのものは海外では$470で売られているのに対し、国内では¥80,000といった状態です。噂によると代理店のマージンが大きいとのことです。
MTRON
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
MSD-SATA3025016 | 16GB | SLC | 100MB/s | 80MB/s | ¥30,000 |
MSD-SATA3025032 | 32GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥50,000 |
MSD-SATA3025064 | 64GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥120,000 |
非常に高い性能を誇り、不具合報告もあまり見られない優秀な製品です。ただし、お値段は非常にお高い。お大尽様はこのシリーズか、Samsungの製品で決まりでしょう。
Samsung
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
MCBQE32G5MPP-0VA | 32GB | SLC | 100MB/s | 80MB/s | ¥50,000 |
MCCOE64G5MPP-0VA | 64GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥100,000 |
Samsungの強みは、フラッシュがOEM品ではなく自社製であることで、おそらくMTRONのものもSamsungのフラッシュを採用していると思います。また、上記のOCZやSupertalentの製品のフラッシュ本体もSamsung製です。この製品も値段が高いということを除けば非常に優秀な製品です。MTRONの64GBはあまり入手性がよくないようなので、64GBが欲しい場合はこちらを選ぶのがよいでしょう。
現状、HDDメーカとしてのSamsungはお世辞にも信頼されているとは言い難いですが、SSDメーカとしては信頼がおけるようです。
Transcend
製品紹介ページ
<買ってよいもの>
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
TS64GSSD25S-M | 64GB | MLC | 116MB/s | 43MB/s | ¥40,000 |
TS64GSSD25S-S | 64GB | SLC | 119MB/s | 64MB/s | ¥100,000 |
<買わないほうがいいもの>
型名 | 容量 | タイプ | Read | Write | 概算価格 |
TS32GSSD25S-M | 32GB | MLC | 26MB/s | 14MB/s | ¥19,000 |
TS8GSSD25S-S | 8GB | SLC | 30MB/s | 22MB/s | ¥13,000 |
TS16GSSD25S-S | 16GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥23,000 |
TS32GSSD25S-S | 32GB | 同上 | 同上 | 同上 | ¥46,000 |
今まで挙げてきたメーカは、Samsungを除いては全く無名のところばかりです。OCZはかろうじてメモリを売っているのを見たことがありますが、MTRONやSupertalentなんて聞いたこともありません。
ということで、日本人思考なら多少お高くても有名メーカのトランセンドのものを買っておこう、となりそうなのですが、実際には同社は最も信頼されていないSSDメーカとなってしまいました。
というのは、非常に性能の低い製品を売ってしまったからです。PATAタイプのTS32GSSD25-MではWindowsXPのインストールに12時間かかったとのことです(eru::blogさんのページより)。期待して購入した方々からは怨嗟の声が上がっています。
また、上記のスペック表を見て分かるとおり、容量表記以外全部同じ型番なのに性能が異なるものが入り混じっているという状況で、分かりにくいことこの上ありません。
現状、あえてこのシリーズを購入する必要はないでしょう…
その他
Memoright、GreenHouse、RiDataなどのメーカがSSDを販売していますが、レポートが少ないため今回は紹介は割愛させていただきます。
実際に使ってみた感想
以下は完全に私見ですので、ご参考までに。
大学のPCですが、SuperTalentのMasterDrive MXシリーズ(Rev.A)の120GBの製品をノートPCにて使用しています。
HDDに対しての体感速度はやはり非常に速く、性能には概ね満足しています。フリーズするなどの問題も起こっていません。研究に必要なソフトがいろいろあるためにスタートアップに登録されているプログラムが多く、HDD時代はWindows起動にうんざりするほどの時間がかかっていましたが、SSDにしてからは非常に早く起動するようになりました。
ただ、上述したとおり、コピーが遅いなどの問題があるため、一部の動作はHDDより遅くなったようにも感じます。一番実感しているのは、VisualStudio.net 2005のIntellisenseデータベース(*.ncb)の作成速度が遅くなったことですね。また、ファイルの圧縮・解凍、プログラムのインストールの時間も長くなったように感じます。
今買うなら?
こちらも完全に私見です。
「欲しい時が買い時」とは自作PC業界ではよく聞く言葉ですが、客観的に見ると現在SSDは買い時ではありません。というのも、9月以降にIntel, Micronが参入する上、OCZやSamsungも新型の投入をアナウンスしています。これらの製品は、MLCのものでも読み込み速度250MB/sを謳っているなど、大幅な性能アップが見込まれます。現行製品が大幅に値下げされることも予想されるので、今買うよりはクリスマス商戦の時期まで待った方が得策かと思います。
どうしても今SSDが買いたいという場合は、サムスンかMTRONのSLCタイプが最良の選択肢になるでしょう。双方とも信頼性・性能の両面で優れています。
SLCは値段が高すぎる、あるいはノートPCユーザーで64GBでは足りないという場合は、SupertalentのMasterDriveシリーズのRev.Aを購入するのがよいでしょう。OCZ,SupertalentのRev.Bはフリーズの問題が解決するまで手を出さない方が無難かと思います。