現実の殺人事件の捜査方法(2)

特別捜査本部は、殺人事件などの重大犯罪の捜査に当たる一時的な組織です。今回は、この特別捜査本部の編成についてです。

捜査一課の編成について

特別捜査本部の説明に入る前に、警視庁捜査一課の編成について記します。
捜査一課のNo1は(当たり前ですが)捜査一課長です。その下に2人の「理事官」がおり、さらにその下に10人程度の「管理官」がいます。各管理官は2〜4程度の「班」を指揮します。各班は大体10人程度で構成されています。
具体的な編成はWikipedia刑事部の「捜査一課」の項に出ています。第一強行犯捜査、第二強行犯捜査…とあるそれぞれの「〜犯捜査」ごとに一人の管理官がいます。「踊る大捜査線」(テレビシリーズ)の室井はこの「管理官」の役職でした。例の性格の悪い捜査一課の部下たちは、室井指揮下の殺人犯捜査第何係かに所属しているというわけです。また、前回述べた「庶務担当管理官」は、強行班第1、第2係を指揮する管理官です。名前と裏腹に、捜査一課強行班は庶務を担当しています。
なお、上記のWikipediaの記事では、殺人犯捜査係は第12までとなっていますが、『警視庁捜査一課殺人班』(毛利文彦著)では、平成15年3月時点で殺人犯捜査係は第14まであると書かれています。ネット上で見かけた平成13年3月の警視庁の文書では、第12までの編成となっています。現在(平成19年10月)何個班があるのかは、結局情報を見つけられませんでした。資料の出典がないので確定はできませんが、4年前と比べて捜査班が減っているというのは考えにくいので、Wikipediaの情報は古いものではないかと思います。このあたりの情報をご存知の方はぜひ教えていただきたいです。
ちなみに、「強行班捜査第1,2係は庶務を行い、強行班捜査第3係以降が実際の殺人事件捜査を行う」という記述が時々見られますが、これは古い情報です。現在では、強行班は庶務担当の第1,2係のみであり、殺人事件の捜査を行うのは殺人班捜査係です。
なお、『警視庁捜査一課殺人班』によると、特別捜査第1、第2係、特殊犯捜査第4係の三個班は事実上殺人班と同様に扱われているそうです。建前では、特別捜査第1、第2係は未解決事件の継続捜査、特殊犯捜査第4係は異常事件の捜査に当たることになっています。まあ、ずっとお宮入り寸前の事件を扱っていては士気が下がるでしょうし、未解決の異常な事件が常に一件ずつあるわけでもないでしょうから、フレキシブルな運用は合理的だと言えます。近年では殺人班は人手不足の傾向にあるらしいので、班を遊ばせておくわけにはいかないという事情もあると思います。
ちなみに、本項とは関係ありませんが、特殊犯捜査第1係〜3係はいわゆる"SIT"で、誘拐や立てこもりに対処する専門のグループです。もちろん殺人事件の捜査は行いません。

特別捜査本部の編成

話を特別捜査本部に戻します。
特別捜査本部は、事件発生場所の管轄署に設置されます。設置が決まると、所轄署の講堂に「何々事件特別捜査本部」と墨書で大きく書かれた紙が張り出され、中に捜査会議のためのテーブルやイスなどが設置されます。このシーンは、ドラマでもしばしば見かけますね。
特別捜査本部には、通常捜査一課殺人班のうち1個班が参加します。それ以外に、所轄署の刑事や鑑識など、事件の規模に応じて合計50人〜100人程度が召集されます。
なお、通常の事件に投入される班は1個だけですが、重大事件では複数班が投入されることもあります。例えば、世田谷一家殺害事件では3個班が投入されました。
このように、特別捜査本部に参加する捜査一課の刑事は1個班10人程度ですが、所轄署の刑事はそれ以上の人数が投入されます。規模の小さな所轄署では、近隣の警察署に応援を求めたり、地域課や交通課から一時的に人数を割くなどして対応するようです。
特別捜査本部の実質的な指揮官は、前述の管理官です。特別捜査本部の本部長は警視庁刑事部長が、副本部長は捜査一課長と担当所轄署の署長の二名が任命されますが、これら三人は実質的な捜査にはほtんど参加しません。管理官は、担当の数個班が抱える特別捜査本部の指揮を一手に引き受けるため、非常な激務となります。

次回は、具体的な事件の捜査手法についてです。