USBメモリ詐欺とNANDフラッシュの価格について

最近、USBメモリの容量を詐称した詐欺製品が出回っているようです。実際には数GBのNANDフラッシュしか搭載していないにもかかわらず、より多くのアドレス空間があるように見せかけてあるというもので、OSからは256GBとか512GBとかに認識されるようです。当然、実際のフラッシュの容量以上のデータは書き込めません。具体的な体験談は、水槽日記 on the webさんの記事秒間SUNDAYさんの記事などで読むことができます。Yahooオークションなどでもこうした製品が堂々と売られており、注意が必要です。
ちなみに、本当に256GBの容量があるUSBメモリは、先日Kingstonから発表されました(マイコミジャーナルの記事)。お値段は約10万円とのことです。
さて、まともな製品が10万円するのに、ヤフオクで同じ容量のものが数千円という時点であからさまに怪しいのですが、より論理的にそれがあり得ないことを説明することができます。簡単な話で、原価を調べればいいのです。
以前の記事でも触れましたが、USBメモリSSDなどの「メーカ」は、全ての部品を自社で作っているわけではなく、主要な部品を買い付け、それを基板に実装して外箱に収めているだけです。NANDフラッシュを生産するには大規模な設備が必要で、それを備えているのはIntelSamsung東芝、Micron、Hynixなどのごく少数の大企業に限られます。つまり、USBメモリを作るためには、これらの企業との企業間取引でフラッシュチップを買わなければいけないわけです。
こちらのinSpectrumというWebサイトでは、そのようなBtoBのフラッシュチップの価格*1が掲載されています。価格の単位はドルで、容量の単位の"Gb"はギガビット(1ギガバイト=8ギガビット)です。uosaossd@wiki内のこのページでは、その情報をもとにして、SLC64GB分、MLC256GB分の日本円での合計価格がまとめられています(編集してくれている方に感謝)。
そのページから明らかなように、合計256GBのフラッシュチップは、原価の時点で4万円を越えてしまうのです。当然、その原価を大きく下回る価格で256GBのSSDUSBメモリを生産することは不可能です。価格コムやBestgateなどで調べてみても、確かに256GBのSSDは最安でも5万5千円程度になっています。前述のKingstonのUSBメモリはそれらに比べると高価ですが、おそらく生産量が極度に少ないことと、USBメモリ用の小さな実装のフラッシュチップが割高であることが原因であると考えられます。
というわけで、数千円で256GBのUSBメモリは確実に詐欺です。皆様だまされないようにお気をつけください。

おすすめの大容量USBメモリ情報

否定的なことばかりの記事もなんなので、おすすめのUSBメモリの情報もついでに載せておきます。
JMF601/602はプチフリ問題で悪名を轟かせているSSDコントローラですが、これらはSATAだけでなくUSBにも対応しているというユニークな特徴を持っています。これらを搭載したSSDは、SSDとして見ると確かにいまいちですが、USBメモリとして見ると優秀です。
USBメモリは、一般的に小さなファイルのランダムライトが非常に苦手で、通常1秒間に10回以下の書き込みしかできません。それに対し、JMF601/602の場合、書き込み範囲がシステムデータサイズ(数百MB程度)を上回らない限り、1秒間に500回程度と、3.5インチのHDDに匹敵するランダムライト性能を持ちます。すなわち、小さなファイルの書き込み速度が通常のUSBメモリより非常に速いので、JPGを大量に書き込むときなどに大きな差が出てきます。
JMF601を搭載し、USBメモリとして使える製品としては、Silicon PowerのポータブルSSDシリーズや、サンワサプライのポータブルSSDシリーズが挙げられます。OCZやPhotofastからも同等品が出ていますが、これらより割高です。
これらの製品の特徴はUSBとeSATAのふたつのインターフェースを備えていることです。USB接続でも普通のUSBメモリより高速なのですが、eSATAで接続すればさらに高速になります。その性能はIDE接続のJMF601搭載SSDとほぼ同等なので、下手なHDDより高性能です。具体的なベンチマーク結果は、soltec工房さんの記事で見ることができます。この記事で触れている製品はOCZ製ですが、上で挙げた製品と同等品です。CrystalDiskMarkのテストサイズを1000MBにすると特にRandom Write 4KBの性能が下がっていますが、これは書き込まれるアドレスの範囲が1000MBとなり、システムデータのサイズを越えたためと考えられます。また、Sceneries through the lensesさんの記事では、その他のUSBメモリとの比較が出ています。やはり、通常のUSBメモリに比べると、Random Write 4KBの値が圧倒的に高くなっています。
これらの製品は、やはり通常のUSBメモリより割高です。eSATAが付いているPCなんて当分買うつもりがないからもっと安いのがいい、という方には、Silicon PowerLuxMini920シリーズがおすすめです。この製品は、JMF603というコントローラを採用しています。*2このコントローラについて確実な情報はないのですが、おそらくJMF601からSATAの機能を省いた廉価版だと思われます。ベンチマーク結果は、塩肉亭さんの記事で参照することができます。前述のJMF601搭載の製品と同等の性能を持っていることが確認できます。LuxMini920シリーズの32GB版は、最安の32GBUSBメモリと比べても価格差が1000円程度しかなく、性能を考えれば非常にお買い得と言えるでしょう。永久保証がついているのも高ポイントです。
…なんか、Silicon Powerの製品ばかり勧めていますが、別に僕はSilicon Powerの回し者ではありません。他にも高速なUSBメモリがあればぜひ教えていただきたいです。特にJMF603を搭載した製品は他にもありそうな予感がします。

*1:NANDフラッシュやDRAMメモリの価格には、コントラクト価格とスポット価格があります。コントラクト価格は大口、スポット価格は小口の価格です。自作市場に出回るような製品はそれほど大量生産はされないため、概ねスポット価格に連動した値付けがされるようです

*2:LuxMini 920はコントローラが変更になったという情報があります(参考:「継続は力なり」さんの記事)。最近はPicoDrive Dual Xが速いらしいです